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2026.09.24

渋沢MIX会員インタビュー|VerdiaLink: 代表 / プロダクトエンジニア 野原倫久さん

埼玉には事業者が集まる場は数多くありますが、始めたばかりの事業者からベテランの経営者まで、業種を越えて気軽に知りあえる場は、まだ多くありません。「渋沢MIX会員インタビュー」は、渋沢MIXの会員おひとりに、公開の場でじっくりお話をうかがう連続企画です。

第2回のゲストは、VerdiaLink代表でプロダクトエンジニアの野原倫久さんです。AIを活用した業務改善と、埼玉の事業者がつながる「埼玉県事業者インフラ」の運営を、ひとりで手がけていらっしゃいます。

直近2年間で、法人12社と個人500人以上にシステムやAIの導入や活用を支援されました。「埼玉県事業者インフラ」は、開始から2か月で77名が参加しています。

プロフィール

野原倫久さん

野原 倫久(のはら ともひさ)さん
VerdiaLink代表/プロダクトエンジニア

企業の業務改善やDXを支援する、システム開発者です。AIの活用支援から、業務システムの設計・開発まで対応されています。

ゼロから開発するだけでなく、既存のSaaSやクラウドサービス、AIツールを組みあわせた構築も得意とされています。コストと開発期間のバランスを見ながら、企業ごとに合う方法を提案されています。

また、埼玉県内の事業者どうしがつながるプラットフォーム「埼玉県事業者インフラ」を運営し、紹介や協業が生まれる地域のネットワークづくりにも取り組まれています。

企画から改善まで、ひとりで通せるのは、AI時代だからこそ

――誰に向けて、どのようなサービスを提供されていますか。

野原:中小企業や個人事業主の方を中心に、業務の効率化やDXを支援しています。いま、活動の軸は3つです。

1つめは、システム開発です。企画から開発、改善まで横断して、現場で実際に使われるところまで見届けます。

業種は、問いません。

2つめは、AI活用です。「うちは特殊だから」と、あきらめられていた業務にも、AIに合わせて業務を変えるのではなく、いまのやり方に合う形でAIを組み込んでいきます。

3つめは、埼玉県事業者インフラです。埼玉の事業者が経営年数や業種を越えてつながり、情報と仕事が行き交う場です。

この3つは、バラバラではありません。開発で生計を立て、そこで身につけた力をインフラに投じる。

インフラで見つけた課題が、また開発の種になります。

――本業のシステム開発では、どのように関わっていらっしゃるのでしょうか。

野原:課題を聞く、要件を決める、設計する、つくる、検証する、運用する、改善する。通常は、この7つの工程ごとに担当が分かれています。

私は、最初から最後まで、分けずにひとりで通しています。分業が悪いのでは、ありません。

ただ、分かれるほど「なぜこう決めたか」が、受け渡しの途中で失われます。

ひとりで通せるのは、AIの力も大きいです。この数年で、どの工程も軽くなりました。私の実感では、設計する・つくる・検証する工程は6〜8割ほど、決める工程や運用する工程は2〜3割ほど軽くなりました。

AIの恩恵がいちばん大きいのは、手を動かす工程です。お客さまと向きあう工程は、AI以前よりむしろ重要になっています。

「ここが、辞め時だ」。家族と仕事、2つの「近くにいたい」が重なった

野原倫久さん

――いまの活動に至るまでの、経緯を教えていただけますか。

野原:はじめから、地域の仕事をしていたわけではありません。家族のことと、仕事のこと。

2つの「近くにいたい」が、同時に動きました。

子どもは低体重児で生まれ、体が強くありませんでした。妻の育休復帰を控え、父親としてもっと近くで、子育てに関わりたいと思っていました。

仕事では、現場とずれるたびに「どの部署のせいか」と、なすり付けあう時間がありました。決めた人と動かす人の距離の遠さが、自分には合わないと気づきました。

「ここが、辞め時だ」。そう、自分に言い聞かせました。

決め手になったのは、「自分の手が届く範囲で、責任を持ちたい」という気づきです。

システム開発の経験を積むなかで、本来の価値は「システムをつくること」ではないと、考えるようになっていました。お客さまの事業や、現場の課題を解決することです。

――独立されてから、すぐに地域での仕事は始まったのでしょうか。

野原:すぐには始まりませんでした。そこからが、大変でした。中小規模の業務システムなら、AIを使えば、ひとりでも全工程をつくりきれます。

だったら、すぐ駆けつけられる距離の会社と、仕事がしたいと思いました。

でも、地域に人脈がなく、営業しても断られる日々でした。商工会議所に入会し、会合に出て、地道に信頼を積み重ねていきました。

ただ、そこに入っていくには、それなりの時間も費用もかかります。始めたばかりの人には、重い入口でした。

そこで、事業を始めたばかりの人でも、無料で地域の経営者とつながれる場所をつくろうと考えました。デジタル版の商工会議所のような場を、自分の技術でつくる。

2026年6月の構想から1か月でベースシステムを完成させ、7月にローンチしました。

かつて自分が欲しかった場所を、自分の技術でつくりました。技術と、それが活きる場所。

両方を自分の手で持つことで、働く場所も時間も自分で決められるようになり、2つの「近くにいたい」が、どちらもかないました。

差がつくのは、知識の量ではない

――ご相談に来られる方には、どのようなお悩みが多いでしょうか。

野原:いちばん多いのは、「業務を効率化したいが、何から始めればいいか分からない」というご相談です。業種はさまざまですが、お話はだいたい3つに集約されます。

1つめは、情報を追う時間がないことです。調べれば分かりますが、その時間が業務中に取れません。

「あとで調べようと思ったまま、目の前の仕事に追われて手つかずになっている」という声を、よくうかがいます。

2つめは、業務の属人化です。その人にしか分からない作業が、少しずつ積み上がります。

「自分が休むと、止まってしまう業務がある」という状態です。

3つめは、聞ける相手が身近にいないことです。検索で出てくるのは、一般論です。

実際にやった人の話が、いちばん必要とされています。

ほかにも、「システム会社に相談しても、専門用語が多くて不安」という声もいただきます。ですから、専門の言葉を使わずに説明しながら、一緒に方法を考えることを大切にしています。

情報の更新は年々速くなるのに、向きあえる時間は増えません。差がつくのは知識の量ではなく、一次情報が先に届く場所に、自分を置いているかどうかだと考えています。

担当者が休んだ月曜日、半日の待ち時間が5分に

野原倫久さん

――ご支援ののちに、変化されたお客さまの事例はありますか。

野原:個別の事例には守秘義務があるので、どんな場面が変わるか、という形でお話しします。たとえば、担当者が休んだ月曜日です。

朝9時に、いつもと違う請求処理が発生したとします。手順が分からず、ベテランのAさんに電話しても、つかまりません。

折り返しを待つあいだ、ほかの作業も止まってしまい、ようやく着手できるのは午後です。

仕組みを入れたあとは、「この処理、前回はどうした?」とAIに聞くと、1分で手順が返ってきます。「2026年6月・Aさんの作業」という出どころつきです。

中身を確かめて、5分で動き出せます。

大事なのは、速さより出どころが分かることです。誰の、いつのやり方かが分かるから、安心して使えます。

――どのような仕組みで、動いているのでしょうか。

野原:やっていることは、実はシンプルです。共有フォルダで日々の作業をされている会社であれば、担当者が、記録を書き残す必要はありません。

その日に更新したファイルをAIが見にいき、誰が、いつ、何をしたかを読み取ります。

AIが手順書やFAQの形に下書きし、本人は翌日、届いた下書きを確認して承認するだけです。

承認されたものは出どころつきで保存され、次に「どうやるんだっけ」と別の担当者がAIに聞いたときに、整理された手順として呼び出せます。

いちばん重いのは、最初の線引きです。個人情報を読ませる範囲や、フォルダごとの権限をどう設定するか。

この線引きを、導入前のヒアリングで決めきります。

――費用の面では、いかがでしょうか。

野原:「AIを導入したいが、数百万円以上かかると思っていた」という企業もあります。既存のシステムやSaaS、生成AIを組みあわせることで、大規模な開発をせずに、導入コストを大きく抑えられました。

複数のシステムへの転記や、資料作成などの定型業務を自動化した例もあります。その業務にかかる時間を80〜90%削減し、浮いた時間を営業やお客さま対応に充てられるようになりました。

フルスクラッチの開発ありきでは、ありません。「最小限の投資で、最大限の成果を生み出すこと」が、私のいちばんの強みです。

たとえば、補助金や入札情報の自動収集は、「埼玉県事業者インフラ」で実際に動かしています。埼玉県と62市町村分を毎日集め、会員の業種に合わない案件を除外するルールで、1日40件以上あった通知を5件ほどに絞っています。

63のまちの事業者を、ひとつの「スーパー・カンパニー」へ

――今後の活動で、目指していることはありますか。

野原:まずは、県内63市町村すべてに広げて、登録者1,000人を目指します。いまは29市町村、77名の事業者に参加いただいています。

そのうえで目指したいのが、経験が消えない形で貯まっていく状態です。「その補助金、うちも去年使いました」「その申請、ここでつまずきます」。

こうした話は、答えた人の頭には残ります。でも、次に同じことで困る人には届きません。

ですから、誰の、いつ、どこの話かを失わずに、残していきたいと考えています。ただ調べただけでは、出てくるのは一般論です。

返したいのは、埼玉で実際にやった人の話です。

AIが考えたことと、人が体験したことは、混ぜません。

投稿は任意で、公開範囲もご本人が決められます。

ただ、会員が何人になったかではなく、どれだけ本物の経験が貯まったかで、測っていきたいと思っています。

――その先には、どのような景色を描いていらっしゃいますか。

野原:埼玉県の「埼玉版スーパー・シティプロジェクト」には、2026年2月に、全63市町村の参加が決まりました。県がつくるのは、「コンパクト・スマート・レジリエント」を柱にした、交通や医療、エネルギーといった暮らしの器です。

その中で回る「仕事」は、民間の領分だと考えています。県は、63のまちを「スーパー・シティ」へ。

私たちは、63のまちの事業者を、ひとつの「スーパー・カンパニー」へ。

単なるシステム開発の受託先ではなく、「困ったら、まず相談したいパートナー」でありたい。県外に出ていた仕事が、埼玉の中で回りはじめる、そんな未来を目指しています。

渋沢MIX会員インタビュー当日の集合写真

野原倫久さんのリンク

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